臓器別治療法


<血管内治療法〜ETクリニックの功罪>


 まずは2つのコメントから紹介します。

1.この治療法は夢の治療法であり、この治療法を施行する医師はドリームドクターだ。
(2007年1月20日TBSテレビで放映)

2.私は25年以上がん治療に携わっているがこんな非常識な治療法は初めてです。(中略)  化学療法の原則を踏み外した治療と言わざるを得ません。
(2006年11月24日「週刊朝日」 浜松オンコロジーセンター院長渡辺亨医師の発言)

 さてこのコメントはどちらが正しいのでしょうか。全てはエビデンスに基づく検証をすることにより 結論が出ます。

 そもそも血管内治療法とは何か?
 血管内治療法とは要するに患部に抗がん剤の局所動注を行い、場合により血管内塞栓を行って 病巣を制御する治療法のことです。この治療法自体は別に目新しい治療法ではなく、 少なくとも夢の治療法ではありません。従い血管内治療法の利点、欠点は既に解明されています。


<利点>
1.抗がん剤の全身投与に比べ総投与量が少ないことが一般的で、健常臓器に対する負担が少ない。
2.局所投与であるので癌巣に対する制御がしやすい。

<欠点>
1.多発性転移には局所制御は不可能なため施行自体が無意味。
2.血管内治療法は動注のため、せっかく注入した抗がん剤が腫瘍部位に長く停滞、 作用させることが難しく、腫瘍内の抗がん剤がより高濃度に長時間停滞するのは 更なる工夫が必要。
3.転移予防にはならない。
 当たり前のことですが、癌病巣に対する制御を行うことは健常部位に対する 転移予防にはならないのです。そもそもできるだけ健常部位に抗がん剤が流入しないように することが血管内治療法の特徴ですから。



 以上よりまとめると血管内治療法に向くがんと向かないがんが判明してきます。

<血管内治療法に向くがん>
脳腫瘍、肝細胞がん、咽頭・喉頭部がん、子宮頸がん、骨軟部腫瘍

<血管内治療法に向かないがん>
乳がん、肺がん(小細胞性、非小細胞性)、胃がん、膵臓がん、悪性リンパ腫などの血液がん

 次に血管内治療すなわち局所動注療法のエビデンスを考えてみましょう。

1.肝細胞がん
 このがんは末期まで肝臓以外の部位に転移することが少なく、局所動注療法が様々な形で 行われてきました。
 そして現在では阪大病院が始めたIFN-a+5-FU持続動注併用療法を始めとして、一定のエビデンスを 持つ療法として確立されてきました。
(Cancer106.p1990-1997,2006)

 しかし様々な試みの中で判明したことは、治療の成績は各種の治療法の優劣よりも 施行前の肝臓予備能に左右されるということです。
 この事実から、key-drugさえきちんと使用していれば、それほど治療法自体に 優劣がないと考えられます。
(私はその中ではIFN-a+5-FU持続動注+sorafenibがかなり成績が良好な気がするのですが、 あくまでも予想であって確立はしていません。)

 このように肝細胞がんは血管内治療の良い適応ですが、治療法自体にはさほど優劣はなく あくまでも肝臓予備能に成績が左右されるため、この治療法自体が夢の治療法ではなく 施行する医師がドリームドクターとはなりえません。


2.膵臓がん
 膵臓がんにおいて血管内治療すなわち局所動注療法はさほどエビデンスはありません。 その理由の1つに膵臓周囲の血行動態が複雑でたとえ動注化学療法を施行しても、がん全体に 抗がん剤がいきわたらないことがあります。また、その場所から抗がん剤が違う臓器にいきやすいため、 胃潰瘍、易血栓性、肝不全が生じやすく安全な治療法とはいえないこともあります。

 確かに数年前はこうした療法に一定の評価が与えられてきました。その理由は膵臓がんに 奏効性が高い薬が開発されていなかったことがあげられます。
 しかしL-OXP、TS-1、ターセバなどの新薬が出るにつれ、相対的に膵臓がんのメイン舞台から 動注療法は降りつつあります。
 すでに、例えば首都圏の膵臓がんの動注療法で有名な病院からもう治療法がないとされても、 新たに上記の薬を使用すればまだまだ治療成績が伸びる事が確かめられているからです。

 結局、膵臓がんでは動注療法か全身投与かではなく、使える薬がいくつあるかで治療成績が 変わると考えられるからです。以前のように、保険適応外の薬を使用できない場合には、動注療法は まだその存在意義はあると考えられましたが、TS-1の認可でそれも失われつつあります。


3.頭頚部がん
 テレビでもこの領域のがん患者の例が報道されていましたが、血管内治療の良い適応と 考えられます。その理由の1つは、頭頸部がんは手術による切除が食事の飲み込み・咀嚼や 顔の変形、発声・発言など様々な機能障害をもたらすため(脳腫瘍もそうですが)、 できるだけ臓器を温存する必要が求められる領域のがんだからです。

 またこの領域のがんは扁平上皮がんが多いので、放射線療法といかに併用するかどうか も重要ですし、使用する抗がん剤も、現在まだ多用されているCDDP+5-FUの2剤併用よりも DCF療法(タキソテール+CDDP+5-FU)の3剤併用のほうが奏効性が高いので、 (もしくはADR+CDDP+5-FU)この3剤を使用しているかどうかが血管内治療のポイントとなります。
 また頚部リンパ節転移がある場合は、血管内治療すなわち動注の効果が効き難い場所なので、 当然放射線治療併用が必要です。

 もし未承認薬を使用できるなら、後で後述しますが分子標的薬アービタックスの全身投 与の併用も奏効性を向上させるでしょう。(CDDP+5-FU+アービタックス)

 従いテレビで報道された症例は、血管内治療として白金製剤、5-FUに加えADR、タキソテール、 アービタックスの中から1剤以上併用し、なおかつ頚部リンパ節転移があるので動注後放射線療法を どこかのタイミングで行うことが正しい治療法となりますが、実際はいかがでしょうか?
 興味ある方はTV局にでも聞いてみるといいかもしれません。逆にもしこうした治療法を 施行していないとしたら、エビデンスのないいい加減な治療法を施行していることなり、 この医師はドリームドクターどころか犯罪者といわれてもしかたがありません。

 しかし、もしこうした正しい治療法を行っていたとしたら、動注の中でも難しい領域のがんですので (動脈硬化が多いと血栓が飛びやすく、場所からして血栓が飛ぶと重篤の脳梗塞などにもなりやすく 精密な手技が求められるため、消化器肝臓転移の動注とは難易度が違います。)この領域の動注療法を 手がける医師全員を私は大変に尊敬いたします。


4.大腸がんなどの消化器系がんの肝転移
 消化器がんの動注は主に肝臓転移に対して行われています。ここに血管内治療の欠点があります。 というのは言うまでもなく、血管内治療は胸膜・腹膜播種のような細かい微小転移に全く無意味ですし、 また胸水・腹水を伴う場合も意味がありません。もし有効だという人がいたらどのように腫瘍血管を みつけるのでしょう?顕微鏡で見つけるのでしょうか?(笑)

 つまり腹膜播種・腹水が生じやすい消化器系のがんは、血管内治療は適応が少なく限らられています。 (同様に肺がんの場合は胸膜播種・胸水が生じやすいのでこれまた無意味でしょう。)

 現在大腸がんの肝転移に動注療法はその有効性が確かめられています。
(Jounal-of-clinical-Oncology24,p1395-1403,2006あるいは23、P4881-4887+P4888-4896, 2005)
 しかし使用する薬剤が3剤である限りは(L-OXP、CPT-11、5-FU+LV)全身投与より動注が奏効性、 平均生存期間共に上回りますが、分子標的薬や血管新生阻害剤の併用まで考えると動注は良くて互角か あるいは下回ります。

 つまり現在の日本で認可されている薬のみ使用なら全身投与<動注だが、保険内の薬 のみの動注<分子標的薬、血管新生阻害剤までの使用と評価されます。


<まとめ>

1.血管内治療とは、抗がん剤の局所動注と腫瘍血管の塞栓を組み合わせた治療法であり、 特に真新しい治療法でもないが適応を選べば良い治療法である。
 今後も発展を期待してよい治療法である。


2.この治療法の成績の鍵を握るのは、できるだけ選択的に腫瘍血管に接近する術者の技術も 重要であるが、同様にどのような抗がん剤をどの程度使用するか、あるいは組み合わせるかも 大変重要である。


3.しかし海外ではこうした熟練の技術を必要とされる治療法ではなく、誰でもどこでも 使用できる副作用が少ない治療薬の開発に力が注がれており、こうした熟練の技術を 必要とする治療法の発展は良く言えば手先が器用な日本人特有の現象であり、匠の腕が尊敬される 日本の風土になじみやすい。
 逆に言えば海外ではこうした技術の向上は尊ばれず、グローバルな視点ではあだ花になると思われる。
 すなわち海外では副作用が少ない治療法の開発はDDS製剤や分子標的薬に向いているからである。

 特にDDS製剤の開発は血管内治療を施行する医師にはレゾンデートルの消滅になり、 日本での認可が遅れるのも無理ないと思われる。


4.2で記したとおり血管内治療を行うには薬剤の選択が重要であるが、何でもかんでも 動注すれば良い訳ではない。

 実際にETクリニックで治療を受けた例では血管新生阻害剤アバスチンや分子標的薬アービタックス、 ハーセプチンのような動注してはいけない、あるいは動注の意味がない薬まで動注に使用しており、 卒直に言うと抗がん剤の薬物動態や作用機序を詳しく知らない素人の知識以下の医師が治療を 行っていると思わざるを得ない。
 おそらくこうした動注するにふさわしくない新薬まで、通常の抗がん剤を動注で使用する時 と同じ感覚で投与量を加減して使用していると思われる。

 もちろん仮にこの医師のがん治療にかける情熱や、やる気あるいは患者に対する誠実さが存在したとしても、 またこの医師が血管内治療に優れた匠の腕を持っていたとしても、この判断に変わりはない。
(例えば大変良心的で外科技術が優れた外科医でも、抗がん剤の治療の技術が素人同然ということは 良くあることである。)



 血管内治療の適応は以上に記したとおりであるが、おまけにETクリニックでの治療に 良い適応を載せておきます。

<ETクリニックでの良い治療適応>

1.血管内治療を行うに良い適応とされる症例で、なおかつ使用する薬が量、 組み合わせ共に正しい場合。

 → この場合は良い結果を出せると思います。

2.1とは逆に良い適応でなくても、TV番組やマスコミの報道を鵜呑みにして 飛びつくレベルの患者。

 → 例えば納豆がダイエットに良いというTV番組があると直ぐに買いに行く程度の レベルの患者にもちょうどいいと思います。
 自分の施行する治療法の内容、使用する薬の量や薬物名が判らない、理解したくない 患者や、まして自分の病気の標準的な治療法やエビデンスがどうなのか勉強しようとしない 患者にも良い適応でしょう。

 勿論こうした治療法を過去に受け、更にそこから勉強してこのサイトまでたどりついた方は 別だと思います。今は良く勉強し、普通の医師以上の治療知識を持っていても最初の頃は 健康食品などの誘惑に駆られたという方は決して少なくありませんから。

 繰り返しますが良い治療法とは再現性があるものです。全国にある1つの医療機関しかできない、 1人の医師しかできない治療法とはまずは眉につばをつけて見たほうが良いでしょう。

 このサイトに載せてある治療法は、原理的には全国どこの医療機関でもたいした技術がなくても 施行可能であることをお断りしておきます。
 またこのサイトのオリジナルの治療法というのは極めて少なく、大半はASCO等のエビデンスの ある報告があるもの(あるいはFDAで臨床試験認可されているものなど)だということもお分かり頂ける思います。

2007年1月30日


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