印象に残ったカルテ


<症例3:肝門部胆管がん・肺、肝臓、リンパ節転移(60歳代男性)>



<前医の診療情報提供書より抜粋>
 肝門部胆管がんの切除後、肺転移、リンパ節転移、肝転移に対して抗がん剤治療。
 全身状態は良好だが、胆管がんに対する化学療法は、確実な治療効果を有する 抗がん剤はなく、延命効果も明らかではない。これまで、さまざまな地検を繰り返してきたが、 さすがにこれ以上の抗がん治療はなく、今後は抗がん治療を予定していない。

<経過>
2003/01/15 黄疸に気づく。
2003/01/22 前医受診。PTCD施行。胆汁細胞診classV
2003/02/06 当院紹介受診。CT、USにて肝門部胆管がんと診断。
2003/03/07 拡大肝右葉切除、尾上葉全切除、
        幽門輪温存膵頭十二指腸切除 child変法再建を施行。
2004/04/15 CTで肺転移が疑われる。
2004/05/13 CTで肺結節がやや増大したため、肺転移と診断。
2004/05/21 S-1(治験)開始。 
2004/10/04 CTで肺転移の増大を認める。計4コース施行。抗腫瘍効果:NC
2004/11/08 NK105(治験)を開始。
2004/12/14 CTで肺転移の増大を認める。計2コース施行。抗腫瘍効果:PD
2005/01/17 AMG706(治験)を開始。
2005/07/21 CTで肺転移の増大を認める。計7コース施行。抗腫瘍効果:NC
2005/10/14 今後の抗がん医療を断念した。
 

 この治療経過には以下の疑問が残ります。

(第一の疑問)
 胆管がんに有効な治療法は本当にないのでしょうか?
 延命効果が明らかな抗がん剤はないのでしょうか?

(第二の疑問)
 国際的なエビデンスでは胆管がんにはジェムザールが有効とされていますが、 そのジェムザールを差し置いて治験を優先させたのはなぜでしょうか?

(第三の疑問)
 胆管がんに有効とされるジェムザールを患者に1回も提示することなく、 (ジェムザールか治験参加かを患者に選択させるならまだ許せます。)
新薬の第1相試験を2回も行う病院・医師は、患者に最適な治療を行うよりも 人体実験を優先させると判断されてもしかたないのではないでしょうか?

<その後の病状経過>
 治験で一定有効であったTS-1を減量して、KeyDrugであるジェムザールと併用して GEM+TS-1を4回行ったところ、胸部X-P上肺転移縮小、腫瘍マーカーの半減を認めた。
  10月31日 12月26日
腫瘍マーカー(CA19-9) 24,600 11,200
自覚症状 安静時でも咳、呼吸苦出現
PS2
歩行しても呼吸苦なし(100m歩行可能)
PS0〜1改善

 効かない薬の組み合わせでは、いかに臨床試験の名のもとに、がん専門病院で治療しても 効果がないという一例です。
  がん専門病院 標準治療を行う病院 優れた治療
  UFT・アドリアマイシン5-FU GEM単独 TS-1・白金製剤・GEMなど使用
平均生存期間 5.4ヶ月 10ヶ月前後 20ヶ月以上
1年生存率 10% 約40% 70%以上

 GEMを使用することなく、亡くなられた方々がこの事実を知っていたら。
 この臨床試験に参加し、PDとなった胆管がん+多発性肺転移の方でGEM・TS-1・ オキザリプラチン・ターセバを使用して10ヶ月以上延命した方もいます。PSが悪化する 前から正しい治療を受けていれば・・・と思うと、かえすがえすも残念です。


(注)臨床試験に参加させるためにkey-drugをまともに使用せず、データを取るため だけに患者を使用し、用済みになったら緩和ケアを薦める。 わが国を代表するがん拠点病院の、このような仕打ちに憤る人も少なくないでしょう。 あまりの仕打ちにこの症例は心に残っているものの1つとなっています。

2007年7月5日


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